創成化学工学実験 7班。
- 指針
高専祭当日の発表におけるテーマを"流体の性質"とし、自分たちの生活に身近な各種流体の特徴の紹介と、その性質に焦点を当てた実験をする。身近の流体でも特殊な粘性係数を有した流体は身のまわりにも多い。このことから非ニュートン流体の性質を特に取り上げた実験とする。
- 理論
- 流体力学(レオロジー)について
レオロジーとは、物質の流動と変形を扱う科学である。レオロジーを理解するうえで非常に重要な概念であるのが「粘度」であり、この概念に本実験の主体性がある。
そこでまず、この「粘度」について考えよう。一般に粘度とは、流体(液体)の流れにくさを表すものである。粘度の高い物質は流動させるために大きな力を加える必要があり、粘度の低い物質はわずかな力で以って流動させることが可能である。
例えば、コーヒーと蜂蜜をそれぞれコップに入れて傾けたとき、コーヒーは重力により容易に流れ出すが、蜂蜜はなかなか流れ出ない。この現象は粘度の違いから説明されるもので、この時、粘度に関して (蜂蜜)>(コーヒー)であるといえる。
他方で、蜂蜜とマーガリンではどちらの粘度が高いのであろうか。これらをそれぞれコップに入れ傾けた場合、蜂蜜は流れ出るが、マーガリンはコップの底でその形を保持したままであり流れ出ることはない。しかし、ナイフでトーストに塗るときは、両者おなじくらいの力で塗ることができる。さらに、蜂蜜とマーガリンを同じ分量ずつ、それぞれボウルに入れて泡立て器でかき混ぜたとすると、マーガリンは案外小さな力でかき混ぜられるが、蜂蜜をかき混ぜるにはかなり大きな力が必要になる。ということは、粘度に関して(蜂蜜)<(マーガリン)であり、(蜂蜜)=(マーガリン)であり、(蜂蜜)>(マーガリン)でもある。これはなぜかというと、マーガリンはかける力によって粘度が変化しているからである。
流体力学(Rheology)では、コーヒーや蜂蜜のように、与える力によって粘度のかわらない物を「ニュートン流体」といい、マーガリンのように加える力によって粘度が変わるものを「非ニュートン流体」といい、区別している。非ニュートン流体の具体的な例としてはケチャップ、マヨネーズ、ヨーグルトなどが挙げられる。
- 非ニュートン流体について
液相の純物質は、たいていニュートン流体(粘性流体)であると考えて問題はない。しかし、混合された流体、すなわち二種以上の物質の混合物はほとんどが非ニュートン流体である。非ニュートン流体とひとくくりの言葉で言えど、そのうちいくつかに分類できる。力の掛け方によって粘度があがるもの、下がるもの、時間経過で粘度が変化するものなどいくつかある。(おおよそ三種に分類され、またこれとは別にチキソトロピーとレオペクシーという二つの分類もある。)
- ビンガム流体(塑性流体)
バターやマーガリンはナイフで力を加えるとトーストに容易に塗ることができるが、ある程度の力を加えなければ動き出すことはない。この流動させるために必要な力を降伏応力\footnote{その値を降伏値という。}と言うが、とくに降伏値を持ちながらも、いったん流動化してしまえばニュートン流体の如く一定の粘度となる挙動を示すものを「ビンガム流体」あるいは和名で「塑性流体」と言うのである。
- 擬塑性流体
降伏値は持たないが、力を加えることにより粘度が低下するものを「擬塑性流体」と言う。
力を加えるまでは高い粘度を示すため、あたかもビンガム流体(塑性流体)のような振る舞いをする。これが所以で「擬・塑性流体」と呼ばれるのである。
身近な例でいえばトマトケチャップやマヨネーズ、タルタルソース、歯磨き粉等チューブに入った食品や薬品類などの流体の多くはこれに該当する。
- ダイラタント流体
これは擬塑性流体とは逆に、力を加えることにより、粘度が上がる流体の事を言う。現象としては、緩やかに傾けると静かに水の様に流れるが、棒でかき混ぜたり、何らかの流体に対する応力を加えると、固化したように締め固まり流れにくくなる。これは擬塑性流体とは逆に、力を加えることにより、粘度が上がる流体の事を言う。現象としては、緩やかに傾けると静かに水の様に流れるが、棒でかき混ぜたり、何らかの流体に対する応力を加えると、固化したように締め固まり流れにくくなる。

- チキソトロピー
チキソトロピーとは、かき混ぜたり、振り混ぜたりすることにより、力を加えることで、粘度が下がる現象のことを言うが、擬塑性流体との違いを理解する必要がある。
かき混ぜることによって、粘度が低下するという現象の点では擬塑性流体もチキソトロピーも同様であるが、これら二つの大きな違いは、与えた力のみならず、時間経過に伴い粘度が変化するという点である。チキソトロピーを示す流体は、一定の力を掛け続けることで粘度が下がり、その後放置するとその放置した時間にしたがって下がった粘度が元に戻る。
つまり加えられた力積に比例した粘度変化があるのである。
身近な所でチキソトロピーの性質を利用している物は、ペンキなどの塗料である。
ペンキはかき混ぜることで粘度が下がって塗りやすい状態となり、刷毛やローラーで壁に簡単に塗ることができる。ペンキを塗る前によくかき混ぜるというのは、単に色ムラをなくすだけでなくこのチキソ性を十分に引き出す作業でもある。さらに、塗布されたペンキは直後に粘度が上がり、垂れない状態となって乾燥する。これもチキソトロピーの性質であって、
「塗りやすく、垂れにくい」という理想のペンキ材は、チキソトロピーをうまく利用しているといえる。
- レオペクシー
これの定義は二つ存在し、教科書や業界によってその定義がそれぞれで異なっている。
<一つ目の定義>:力を加えたことで、粘度が下がってしまったチキソトロピーを示す流体に、緩やかな振動を与えるとそのまま放置しておくよりも粘度が上昇すること。
<二つ目の定義>:逆チキソトロピーとも呼ばれる現象であり、流体に力を加え続けたとき、時間の経過と共に粘度が増加していく現象のこと。
どちらの立場を採用するにしても、振動などで力を加えるとより粘度が上がるという点では同じである。但し、一つ目の定義では、チキソトロピーの中に含まれる現象であるのに対し、二つ目の定義ではチキソトロピーと相反する現象であり、内容が異なっている。しかも身近にレオペクシーを示す具体的な例がない。
- ダイラタント流体
ダイラタンシー現象の発見者は英国の物理学者オズボーン・レイノルズで、このためダイラタント流体はレイノルズ流体ともいい、ダイラタンシーを「レイノルズ」と呼称することがある。詳しくは次の実験の原理に示す。
- 実験の原理
今回の実験で取り上げたダイラタント流体は、一般的に液相物質と固相粉末粒子の混合物である。静止状態にあるこの混合物は、通常流体内の固相粒子が最密充填構造で配置されている。この状態は、最密充填構造なので単位体積当たりの重量が最大で、全体としての体積が最小となる状態である。これが流動化し外力が加えられることで、圧縮され混合物中粒子の配置が最密充填構造と異なる体積が増化するような配置へと構造が遷移するのである。しかし、この構造の遷移と言うのは、更に大きな外力が働いた事に起因した強制的な構造の変化であって、ゆえにこの無理な変化に応答する強い抵抗が混合物中に発生する。この強い抵抗は力として、すなわちその体積変化に抵抗する力として生じる。(ダイラタンシー)
外力と拮抗する混合物内部の抵抗力(体積変化・膨張に伴う力)が生じると、混合物全体として、固体のような抵抗を示す状態へ移行する。このとき、外力を加えるのを止めることで外力に対する反作用である抵抗力がともに働かなくなるので、もとの流動化状態に戻る。
- 実験について
- 初期計画
計画を班員で出し合い、当初の段階として以下のような事項を意図していた。
- ダイラタンシーの性質を十分に理解できる実験を行う。
- その性質を実感できる実験、その性質を十分発揮した実験を行いたい。
- できればあらゆる条件を変えてその性質を考察したい。
- その他の非ニュートン流体の性質を取り上げた実験もできたら行いたい。
- 予備実験・計画を受けて
計画を受けて、具体的には次のような実験を行うことにした。スピーカーによって低周波数の振動を発生させ、その振動を外力としスピーカーのうえにダイラタント流体を載せてその挙動について調べるというものである。そこでまず、実際にダイラタント流体を作り手動の外力による挙動や液組成の違いによる挙動の変化を調べた。次に実際にスピーカーの上でダイラタント流体を振動させ、その挙動について実験してみた。
- 具体的な実験手順
スピーカを用いた実験では、まず片栗粉を水に、重量比おおよそ1:1でまぜる。全体が均質に混ぜ合わさるように十分かき混ぜる。(かき混ぜる時抵抗力を感じる)次にスピーカの上にラップなどを敷く。この上に作った流体を流し、オシレーターから低周波数振動でスピーカーを振動させる。
- 実際の実験について
予備実験の段階のダイラタント流体を作る工程で、あらゆる組成を考えたり実験したが、思ったよりこの工程で時間を食ってしまっていた。そのことに後で気づいたが、これが原因して実際の実験では多くの実験はできなかった。実際に行った実験は、おもにスピーカーを用いた実験である。その分、解説を充実させるよう努めた。
- 結果
当初は1gずつ組成を変えて実験したが、その組成の違いによる挙動の変化を数値的に得る手段を持ち合わせなかったので、挙動の変化を知る手段は目視に頼らざるを得なかった。このため、変化の違いが目視で判別できる程度に、液の組成の水を多めにしたパターンと、1:1混合のパターン、固相粒子を多めにしたパターンを用意した。周波数はおおよそ40Hzを基準に振動させたが、20Hzから70Hzまで変化させた過程で周波数の違いによる、挙動の変化はほとんど見られなかった。しかし、振幅を変えると挙動は大いに変化した。振幅の変化も数値的に得ることはできなかったが、振幅を最小から最大までの間でおおよそ三段階に分けて変化させた。
どの組成の液でも最大振幅の振動を与えると激しく振動し跳ねあがり周りに飛び散るだけであった。
水多めのパターンは、小〜中の振幅の振動では液面が細かく振動し、延いてはダイラタンシーの性質を見ることはできなかった。1:1混合は中程度の振幅の振動を与えると若干ダイラタンシーの性質を示したが、液面の挙動が水多めのパターンに近いもので、はなはだしく盛り上がるなどの挙動を見ることはできなかった。固相粒子多めのパターンでは、振動を加えた直後から、ダイラタンシーの性質を顕し、液面はほとんど振動せず、まとまって隆起しくねくね動いた。
- 考察
周波数の違いに挙動がほとんど依存しなかったのは次のような原因が考えられる。考えてみれば当然のことであるが、ダイラタンシーは外部からの力の大きさによって、その挙動、つまりどの程度年度が上がるかが決まるからであると考えられる。その点、振幅の違いから流体の挙動に変化が現れたのは、波のエネルギーが振幅の二乗に比例するため、スピーカーの振動の激しさとして振幅の違いが笑われたからだと考えられる。
- 感想
今回、非ニュートン流体を用いた実験を行いましたが、物理化学分野の知識が疎いこともあり、原理などを理解しやすくわかりやすくプレゼンテーションするところが難しかったです。実際にスピーカーの振動によってダイラタンシーの挙動を見せることができたのはよかったですが、ダイラタンシーの性質を生かした応用的な実験をもう少し時間があればやりたかったです。
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